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執筆者の写真Hinata Tanaka

【帝都復興院の為政家たち】協働のための環境



こんにちは、サニーリスクマネジメントです。

今週のブログは、シリーズ「帝都復興院の為政家たち」と題し、来週の防災週間に向かい、1923(大正12)年9月1日に発生した関東大震災からの復旧・復興に向けて政策を執り仕切った6人の政治家の言葉や災害対応のエピソードを紐解きながら歴史を振り返るとともに、現代の復旧・復興のありかたを探っていきます。


今回は、後に第4代国鉄総裁を務め「新幹線の父」と呼ばれ、東京と横浜の復旧・復興を担った「帝都復興院」では経理局兼理事を務めた十河信二のエピソードとともに、帝都復興院の舞台裏を見てみましょう。


"震災直後に誕生した帝都復興院の總裁後藤新平の眼鏡に叶つて、かれは、復興院經理局長心得に招聘された。そして、後藤總裁から辭令を貰つたその日、友人の太田圓三を土木局長に据えろと、後藤に進言し、その言が容れられず、後藤を馬鹿野郞呼ばはりして、その晚に伊香保へぷいと身を隱したといふ話が、かれの豪傑ぶりを物語る一つの話柄として傳へられてゐる。"


国内の財界人について記述した『財界不連続線』(1938)において著されているこのエピソードは、時に十河の剛直さを語っているように見えますが、ここから災害対応におけるマインドのありかたを窺い知ることができます。


復興院総裁であった後藤が鉄道院総裁を務めていた時期に鉄道院に入庁した十河は長きにわたり経理を務めていました。その経験があり今度は帝都復興院へ引き抜かれた彼ですが、熱さがありながらもやや短気な人として知られていたようです。各方面の人物についてエピソードを用いて評論した『人間と社会』(1940)では、上記のエピソードについて次のように評されています:


"常識で考へても、おのれの知己であり、恩人であり、上長官でもあるものを、如何に議論に熱したとはいへ、我を忘れて馬鹿野郞呼ばりするやうな眞似は、正氣の人閒では、なし得ないところで、事實彼が、噂話が物語るやうな、精神異常者であつたなら、今日あるが如き、十河信二ではなかつたと思ふ。"


『人間と社会』では噂が流布するうちに誇張されたり、話が歪められたり、尾ひれが付いたりしているとして、十河の性格に焦点を当てて論を展開しています:


"非常に道德的に、自己反省力の强い人か、その反對に、非常に利害の打算に明敏の人は、猥りに、使用人などにたいし、荒い言葉を出さない。他人のことより、自分はどうかと、反省してみれば、威張つて、他人を責める氣にならないと同樣に、損得を考へて見ても、たゞ他人から恨みを買ふ許りで、實益は、一つも伴はぬことが、知れ切つてゐるからだ。だから十河が腹立ちつぽいといふのは、道德的に反省力の乏しさを物語ると共に、利害の打算によつて、自己を韜晦するほど、人閒の性質が惡くないことを、表白するものなのである。"

──非常に道徳的で自己反省力の強い人か、その反対で、非常に利害の打算に明るい人は、みだりに使用人などに対して荒い言葉を出さない。他人のことより、自分がどうかと反省してみれば、威張って他人を責める気にならないと同様に、損得を考えてみても、ただ他人から恨みを買うばかりで、実益はひとつも伴わないことがはっきりわかっているからである。だから十河が腹立ちっぽいというのは、道徳的に反省力の乏しさを物語ってはいるが、利害の打算によって故意に自身の地位や才能を隠すほどには性質が悪くないことを表している。


災害対応や復興においては市民の救命や生活の再建、都市の再建に注力することになりますが、そのような場面で自身の利益や利害ばかりを気にしているのでは合意形成はうまく立ち行かなくなります。実際、関東大震災からの復興においても、予算決定のプロセスにおいては内相兼復興院総裁であった後藤を降ろそうと躍起になっていた政治家が存在していたことが『宮尾舜治伝』に記されています。そういった財政面の難航や以前の回でお伝えした理想派と拙速主義の対立などが顕在化していた状況下では当然ながら意思決定が切羽詰まる場面もありました。


『人間と社会』では、道徳と利害を中心に語られていますが、『道德的に反省力の乏しさ』よりも『利害の打算によつて、自己を韜晦する』ことのほうが性質が悪いとされています。韜晦(とうかい)とは自分の才能・地位などを隠すことを意味しますが、これが打算的な理由によるものであれば良くないということなのです。


現代に合わせて解釈した場合は、プロセスに関わるすべての人の才能や地位による効果が妨げられることなく発揮できるほうがより良い方策となるかもしれません。さまざまな考えや性格の人々が集まってチームを作るからこそ多様な意見を取り入れた方針やシナジーが生まれるのですが、今後再び関東大震災のような大災害が発生したとき、いかに冷静で効率的に合意形成を進められるか、またそれが可能な環境を作ることができるか、私たち一人一人が考えていかなければなりません。


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