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執筆者の写真Hinata Tanaka

【帝都復興院の為政家たち】ひとを考える施策

更新日:2023年8月23日



こんにちは、サニーリスクマネジメントです。

今週のブログでは、シリーズ「帝都復興院の為政家たち」と題し、9月1日の「防災の日」を含む「防災週間」に向かって、1923(大正12)年9月1日に発生した関東大震災からの復旧・復興に向けて政策を執り仕切った6人の政治家の言葉や災害対応のエピソードを紐解きながら歴史を振り返るとともに、現代の復旧・復興のありかたを探っていきます。


今回は、第1回「公園と道路」でご紹介した後藤新平について、彼のことばとセオリーから、危機管理の原則のひとつである「コミュニケーションと合意形成」について考えてみましょう。


"民心の安定なくして統治なし"


1898(明治31)年から台湾で経済改革やインフラ整備を進めた後藤は、台湾における施策について、徹底した調査により現地の状況をよく把握し理解した上で実行することをポリシーとしていました。自然発生的に成立した社会の慣習や制度は生きものと同じようにそれ相応の理由と必要性をもって生まれたものであるから、無理に変更してしまうと大きな反発を招き施政がうまく立ち行かなくなると考えた彼は、調査を行うことで現地の人々のニーズを見出していたのでしょう。実際に後藤は台湾での法整備に際して、清朝の時代から残る農業・商業・工業などに関する法制度や慣習の調査を行う委員会を設置、中国哲学や中国史の研究者をして清朝の法制度の側面から台湾やそこに住む人々と社会に寄り添った施策の展開につとめました。


突拍子もない施策を行なっては大きな反発を受けてしまうという考えは、政治だけでなく危機管理にも共通するものです。危機管理も、民心(国民や市民をはじめとしたステークホルダーの安心)があってこそ実現するものであり、後藤のことばに通じるものがあります。


危機管理における「民心の安定」は、「コミュニケーションと合意形成」によって生まれます。危機管理の場面でのコミュニケーションはリスク(脅威が顕在化し影響が出る可能性)発現の前後で2つ存在しており、リスク発現前のコミュニケーションである「リスクコミュニケーション」とリスク発現後のコミュニケーションである「クライシスコミュニケーション」から構成されています。どちらもリスクの発現により影響を受けている場所の状況を把握し、その場所にいる人々がどのような情報や資源・支援を欲しているかを分析した上で実施することが必要です。


事業体や自治体、国家など、多様な人の集まる組織や広域にわたって危機管理を実施する際には、コミュニケーションが非常に重要となります。なぜなら、危機管理におけるコミュニケーションは危機管理を実施する人や組織からステークホルダーに対して「どこに・どのようなリスクがあり、リスク発現時にはどこに・どれだけの範囲や人や財に・どれだけの影響が現れるか」を説明してマネジメントの実施の是非や可否を明らかにしたり、マネジメントを行う場合にその目的や戦略、手法・費用・期間など詳細にステークホルダー間でのすり合わせを実施したりするものであるからです。危機管理のコミュニケーションにおいては、さまざまな方面からそれぞれの事情に通じる人材を選出し各人の立場からの意見を述べて最適な方法を選び出したり折衷案を考案したりとさまざまなプロセスを経て意思決定が行われます。そして、最終的にはマネジメントを行う対象となる地域や人、組織から十分な理解と合意を得た上で実施することが重要なのです。これらのプロセスが欠落すればするほどステークホルダーからの反対意見は大きくなり、マネジメントの効果も見えづらいものとなってしまいます。このプロセスは、復興段階のコミュニケーションにおいても同様といえるでしょう。


ところで、後藤は次のようなことばも残しています。


"一に人、二に人、三に人"


何をするにも人のことを考え、人をして、人のために行動を起こすというヒューマンベースの考え方が彼の多くの施策に生きていました。彼が「帝都復興院」時代に実行した復興事業においても、小学校を中心とした地域コミュニティづくりによる人と人とのつながりの再構築や幅員の大きな歩道と道路を造ることでの人命保護や救護の可能性の上昇など、いかにして人命を守るか、地域やその地に住む人が協働して防災都市を構成するかを考慮した施策が実施されました。


どんなに技術が進歩しても、都市化しても、また脅威が増えて多様化しても、さらに、人口構成が変わっても、不確実な時代になっても、いつの時代も変わらないのは、社会は人によって構成され動いているということではないでしょうか。そして、人という生きものが動かしているからこそ社会や国家も生きものであり、それぞれの場所・時代・人に沿った施策とコミュニケーションが必要なのではないでしょうか。




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