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バングラデシュで何があった?デモの理由と今後の動き

※この記事は、日本時間8月6日(火)正午までの情報をもとに作成しています。

 

8月に入ってから急速に激化し、世界的な注目を集めているバングラデシュにおける反政府運動と首相辞任。今、バングラデシュで何があったのかと国内外からの情報発信と収集が続いています。今回の記事では、2024年7月から発生しているデモと、それに伴う政権の動きを解説します。

 

バングラデシュはどんな国?

 

今回の反政府運動について知る前に、まずはバングラデシュの構成や現代史についてみていきましょう。


バングラデシュ人民共和国(People’s Republic of Bangladesh)は、ベンガル湾に位置しており、インドとミャンマーの間に位置しています。首都はダッカで、国民の多くをベンガル人が占めています。国民の9割以上がイスラム教を信仰しており、国教にも指定されています。

 

バングラデシュは1947年にインドからパキスタンの一部(東パキスタン)として分離独立したのち、1971年にバングラデシュとして独立した国で、これまでに2度の独立を経験しています。1971年の独立後は初代大統領であるムジブル・ラーマンにより国家が作られていったものの、1975年にはクーデターが起き、1990年までの2政権で軍政が敷かれました。1990年のエルシャド政権退陣に伴い民主化への機運が高まり、2大政党制となったほか、1991年の憲法改正では、これまでの大統領制を改め、議院内閣制に移行しています。

 

そんなバングラデシュでは近年、ハシナ首相(当時)を中心として政治が進められてきました。2009年にはハシナ・アワミ連盟政権が誕生し、所得向上や全国IT化などの内政充実に努めます。しかし、2015年になると野党連合による反政府運動が強まったことに加え、イスラム過激派の動きも活発化し、国民だけでなく外国人までもが攻撃の標的となりました。この時期には、イスラム教シーア派やヒンドゥー教の宗教施設等の襲撃事件や、ダッカ市内の外国人居住区でダッカ襲撃テロが発生し日本人7名を含む20名超の死者が発生するなど、国内外の多くの犠牲者が発生しています。ハシナ首相(当時)は、これを受けてゼロ・トレランス」というテロを一切容認しない意向を示し、過激派の摘発に力を入れていました。

 

2018年の総選挙・2024年の総選挙でも与党が勝利し、ハシナ首相(当時)はバングラデシュ初の4期連続で首相を務めることとなりました。ただ、2024年の総選挙では野党は選挙をボイコットしており、反政府運動の兆しは見えていた可能性があります。

*バングラデシュ統計局へのアクセスが不可能なため、一部内容を外務省による基礎データからそのまま引用しています。

 

バングラデシュで何があったのか、デモの理由は

 

今や大規模な暴動と化しているバングラデシュでの反政府運動ですが、その発端には何があったのでしょうか。

 

BBCが報じたところによると、すでに2024年7月19日には政府が全国に夜間外出禁止令を発令しており、それほどに運動が過激化していたことが窺えます。この反政府運動は元々平和的な学生運動でした。7月上旬から始まった抗議活動はあくまでも平和的なもので、政府は学生らの要求に応えてもいたのですが、ハシナ元首相は今回の暴徒化していった反政府運動に対して『国を不安定化させようとしているテロリスト』と表現し、断固として許さない強硬な姿勢を見せていました。

 

前述の学生運動は、政府が発表した、1971年の独立戦争における退役軍人の家族に対して、公務員採用で優遇措置を取るという案に反対するものでした。公務員採用で”優遇措置枠”となるのは全体の約3分の1。学生らはこの優遇措置を差別的であるとして、それぞれの実力に基づいた採用を行うことを求めています。元々学生運動であったこの抗議活動は、あらゆる職業の人が参加するものへと変化していったようです。

 

バングラデシュでは、2009年のハシナ・アワミ連盟政権誕生以降、2021年までに中所得国になることを目標とする「ビジョン2021」、2041年までに先進国入りすることを目標とする「ビジョン2041」という所得や労働と密接に関係した2つの政策を掲げており、バングラデシュ経済が大きく成長している一方で、その経済成長は今回デモを起こしたような学生の就労には繋がっていないという現状があります。

 

バングラデシュの経済成長を支えたのは、自国民の手による道路や橋梁、工場、地下鉄などの整備・運営と既製服の製造・輸出です。特に既製服の製造と輸出については、その工場で働く多くが女性であるものの、高い教育を受けた大学卒業生にとっては満足のいくものではないといえるでしょう。また、前者についても多くの事業で政府の汚職が見られ、政府や与党周辺の人物ばかりが恩恵を受けているといった状況が長く続いています。現在のバングラデシュの学生は、大学を卒業しても国内に満足のいく働き口がなく、国内では大学での教育を受けていない若者の方が工場や建設現場などでの労働を得ている一方、他国を見てみても、隣国のインドなどにはさらに優れた人材が多くいるために競争に参加することが難しいという状況にあることが推察されます。

 

長年続く汚職も背景か

 

学生運動を端緒とした今回の反政府運動には、長年続く政府の汚職に対する国民の怒りが見えています。冒頭に記した公務員採用での優遇措置も、親政府派だけに利益をもたらしていると批判されています。バングラデシュのSNSでは、日々ハシナ元首相の元政府高官に対する汚職疑惑が話題に上がっている一方で、7月中旬にはハシナ元首相が会見を開き、汚職を長年の問題として認め、解決に向けて行動することを国民に約束することを表明しました。その後国内の腐敗防止委員会による調査が始まっていますが、その進捗は芳しいものとは言えないでしょう。

 

これに加えて、バングラデシュではハシナ元首相を中心とする政権下にあったこの15年間で、民主的な活動が縮小されている可能性があります。実際、主要野党であるBNP(バングラデシュ国民党)は、ハシナ元首相のもとでは自由で公正な選挙は不可能であるとして、2014年と2024年の総選挙をボイコットしています。また、この15年間で、政府に批判的な意見を持つ批評家が姿を消した例が80件以上確認されているなど、長年のハシナ政権下では反対意見やマスメディアの動きを阻害するような政権の独裁化が懸念されるようになっていました。

 

こういったハシナ政権下における長年の汚職に対する怒りや独裁化への懸念が、今回の過激な反政府運動につながった可能性があります。

 

バングラデシュ政府の反政府運動への対応

 

バングラデシュ政府は、今回の反政府運動における暴動に対して、反政府意識とイスラム主義政党によるものであるとしています。法務大臣は、7月時点で、学生運動に対し「合理的な議論の場合は喜んで耳を傾ける」と語っていましたが、現在、政府は暫定政府へと移行しており、今後この問題がどのような動きを見せるかは不透明です。

 

今回の反政府運動が暴動に発展したことを知らせる大きなニュースとしては、7月19日の刑務所襲撃が挙げられます。この襲撃で数百人の受刑者が逃走し、政府はこれを受けて、夜間外出禁止令を発令しました。さらに、治安回復のために軍が投入されることとなります。この時点で、政府は電話やインターネットといった通信はほぼ完全に遮断、バスや列車も停止しており、全国の学校や大学も閉鎖されています。同日には、学生らがダッカ大学前でデモ行進を行ったり、イスラム主義政党が主導したデモ行進も行われたりしています

 

反政府運動に関しては、主要野党のBNPも運動への参加を呼び掛ける事態となっているほか、警察がBNP幹部の一人の身柄を拘束するなど、抗議運動の平和的な解決は難しく、暴動が過激化するばかりの状況が続いています。こうした暴動や衝突は首都ダッカだけでなく、国内26県で報告されており、反政府運動と暴動は全国的なものとなっています。このほかにも、18日には政府庁舎周辺での放火・国営放送等のマスメディアへの放火等が相次いでいます。暴動の沈静化には軍や警察が動員されていますが、その中でも死傷者が多数発生している状況です。

 

首相辞任後の動き

 

8月4日にも警察とデモ隊の衝突があり、91名が死亡し数百人が負傷するなど大規模な被害が出ており、政府は無期限の外出禁止令を全土に発令しています。この時点で、7月中旬以降の抗議活動によって300人近くの死者が確認されています。その最中、5日には、ハシナ元首相が辞任を発表。元首相の国外脱出ととともに、ザマン陸軍総司令官がテレビ演説を行い、暫定政権の樹立を発表しました。

 

ザマン陸軍総司令官は演説で、「抗議活動で発生したすべての死と犯罪に対して正義が果たされることを保証する」と述べて国民に暴力や破壊行為の停止を呼びかけた上で、「我々はすべての主要野党の代表者と協力することを約束した」と述べています。今後は、暫定政権が超党派的な動きにより民主主義の再建に取り組むものとみられます。

 

5日のハシナ元首相出国後は、シャハブディン大統領が、2018年に汚職の罪で17年間の懲役刑を宣告された主要野党指導者・ジア元首相の釈放を命じたほか、今回の学生運動で逮捕された人々の解放を決定するなど、すでに暫定政権による新たな動きと、人々の生活の回復が進められています。また、バングラデシュ軍は、現地時間8月6日火曜日の夜明けに夜間外出禁止令を解除し、同日午前6時(現地時間)から、国内のオフィスや工場、学校、大学の封鎖を解き再開すると述べています。

 

今後のバングラデシュの姿は、暫定政府がどのような形で造られていくか、誰によって構成されるかなどに左右されます。今後の動きも見逃せないでしょう。


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