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執筆者の写真Hinata Tanaka

ポスト・トゥルースの認識と対策

更新日:2023年8月22日

こんにちは、サニーリスクマネジメントです。

このブログでは、今週のコラムとしてInstagramにて投稿した「ポスト・トゥルース」について深掘りしていきます。本記事の最後にInstagramにて公開中の記事も掲載しておりますので、ぜひ併せてご覧ください。


「ポスト・トゥルース」とは

「真実でない真実」、「客観的に見れば真実とはいえない真実」と表現される不思議な言葉──「ポスト真実」とも呼ばれるこの言葉が広く使われるようになったのは2016年のことでした。きっかけはイギリスのEU離脱是非を問う国民投票と第58回アメリカ合衆国大統領選挙でした。歴史の浅い概念であるだけに定義は様々ですが、総じて事実よりも感情が優越する状態を指している傾向にあります。つまり、事実がいかに客観性をもって論理的に説明されていても、いかに個人の感情に訴えるか、その人の信条や考えに沿っているかが個人の考え方・世論の形成に関わっているということになります。ではここで、「ポスト・トゥルース」が現れた事例をいくつか見ていきましょう。


事例1: Vote Leave(ヴォウト・リーヴ)

Vote Leave(ヴォウト・リーヴ)は、2016年にイギリスで行われたイギリスのEU離脱是非を問う国民投票で離脱派のキャンペーンを展開した団体です。Vote LeaveはイギリスのEUに対する加盟拠出金は週3億5千万ポンドであると主張していましたが、これは事実ではなく、残留派はEUからイギリスに分配される補助金などを差し引いて計算すると実際の拠出金は週1億数千万ポンドになると反論しました。選挙後になって離脱派のリーダーの1人が残留派の提示した金額が正しいと認め、市民からは「離脱派の嘘を信じて投票してしまった」と投票を後悔する声が聞かれたほか、再投票を求め400万人以上の署名が集められました。離脱派と残留派の提示した額の差は約2億ポンド。国の将来に関わる大きな二択の決断を迫られた市民にとってその判断材料の一つであった内容に虚偽の説明があったのです。ここまでを聞くと政治家が市民に虚偽の説明をしていた「ウソ」に終始するように思えますが、Vote Leaveは街中にこんな赤地のポスターを掲示しました: 「私たちはEUに毎日5,000万ポンド出している、50ポンドはEUではなくNHS(国民保健サービス)に使いましょう」。通行人の目を引く赤色のポスターには見る人の感情に訴えるような表現がされていました。それだけでなく、Vote Leaveはチラシやプラカードに大手自動車会社のロゴを無断で使用し印象操作を行おうとしたことも明らかになり、まさに客観的に見ると真実ではないことをあたかも信頼性のある事実であるかのように宣伝した「ポスト・トゥルース」の一例であったといえるでしょう。


事例2: 2016年アメリカ合衆国大統領選挙

2016年の米大統領選では共和党のドナルド・トランプ・民主党のヒラリー・クリントン両候補が戦い選挙の結果トランプ政権が政治の舵を取ることとなりましたが、この選挙は言うまでもなく幾つもの複雑な疑惑が浮かび上がった選挙でした。まず、この選挙ではトランプ支持者に向けた偽のニュースサイトがいくつも立ち上がりました。偽のニュースサイトでは、ヒラリー陣営や本人に関するデマが次々と流され、「ピザゲート」などの事件を引き起こしたきっかけにもなりました。また選挙終盤ではSNSによる情報の拡散が顕著になり、FacebookやTwitterを中心にデマや偽情報、嘘、フェイクニュースが発信・拡散され混沌とした中で投票が行われました。やはりここでも「彼女(対立候補者)はひどい犯罪に手を染めているが、彼(自らの支持する候補者)は悪行から被害者や世界を救うヒーローなのだ」といった宣伝が蔓延っており、事実に基づかない主張とその情報を得た者の感情に訴えるような表現(語気の強い単語や対比表現の多用)など、まさに「ポスト・トゥルース」下で行われるようなコミュニケーションが多く見られました。


ポスト・トゥルースの背景

ポスト・トゥルースが伝播した背景のひとつにはインターネットの隆盛、特にSNSの普及があると考えられています。ポスト・トゥルースのもつ感情優位・心地よい情報の選択という要素は共感で人同士が繋がり・好きな情報だけを得ることができるというSNSの特性と親和性が高いのです。SNSでは好きな投稿や賛同する投稿に対して「いいね」で同意を示すことができ、「リポスト」でその投稿を他者に広めることもできます。これが感情優位における親和性です。そして、SNSは「プル型」のメディアです。横道に逸れますが、メディア(情報を伝達する媒体)において「プッシュ型」「プル型」という分類があります。プッシュ型とは、テレビ番組や紙媒体の新聞など情報の受け手が見る情報を選ぶことのできないメディアを指します。対して、プル型とはSNSや動画投稿プラットフォームなど情報の受け手が見る情報を選択できたり、見たくない情報を表示しないようにコントロールしたりできるメディアを指します。つまり、例えば経済の情報だけを欲している人がメディアを用いて情報収集をするときにプル型のメディアを使えば必然的に政治や社会の話題も知ることになるし、プッシュ型のメディアを使えば経済の情報だけを見てその他の情報は見ないという選択もできるということになります。プッシュ型のメディアでは利用者の見る情報の傾向に沿って同じジャンルの話題をおすすめする機能もあるため、心地の良い情報や自らの信条に則した情報だけを得ることができる一方、視野が徐々に狭くなっていく可能性があります。では、その「プル型」のメディアにあたるSNSですが、前述の通り利用者は心地の良い情報を積極的に選択することができるため、タイムラインがデマやフェイクニュースでいっぱい、という状況にもなりかねません。当然ながらそれらの情報はその利用者からしてみると「真実」なのですが、外野から見てみると嘘の羅列にしか見えないということが起き得るのです。また、SNSや動画投稿プラットフォームでは報道機関や専門家だけでなく一般の人が投稿した情報で溢れていることも留意しなければなりません。そしてそれらの投稿の一部にはファクトチェックが行われていないものや感情的なもの、不正確なものが多いことも覚えておく必要があります。インターネットやSNSを使用する際にしばしば「リテラシー」という言葉が聞かれ、上述の内容こそ「リテラシー」に該当する内容ですが、これは「ポスト・トゥルース」を生き抜くために有用なスキルのひとつです。実際、SNS上でデマやフェイクニュースが拡散され「ポスト・トゥルース」の顕著な例となった2016年の米大統領選においてそれらの拡散を止められなかったことに対するデベロッパーとしての責任を問われたFacebook(当時)のザッカーバーグ氏は「(フェイクニュース拡散などの)問題は技術的にも哲学的にも複雑である」と真実と非真実の判断、風刺やジョークとの区別などに難点を見出し、Facebook(当時)が特定の情報に対して真実・非真実かを判定することに対して慎重な姿勢を見せました。


「ポスト・トゥルース」を生き抜くには

真実が曖昧になり客観的な情報が軽視される「ポスト・トゥルース」では、多くの「ディスコミュニケーション」が生まれます「ディスコミュニケーション」はコミュニケーションが失敗すること、具体的には情報元が提供している情報が誤った内容に変化して伝達されることやそもそも誤った情報が伝播することを意味します。特に民主主義国家においては程度は異なりながらも表現の自由や思想の自由が保障されているため、特定の表現や思想を規制することは基本的に許されません。自由に表現できる一方で規制は最小限にとどめられるため、デマや嘘、フェイクが拡散されるリスクは高くなります。そこで重要になるのが、先に述べた「リテラシー」です。仮に情報の発信元が誤った情報を発信していても、受け手がその情報の根拠を見出せたり、嘘や誤りを指摘できたり、感情を揺さぶるような表現に影響されず冷静に受け取ったりできれば、ディスコミュニケーションの発生は防ぐことができます。また、発信する際もリテラシーがあれば、自らが発信しようとする内容に根拠があるか、事実と異なる内容を含まないかなどを確かめた上で発信できるため、信頼性の高い情報を提供することができます。


さて、今回のブログでは「ポスト・トゥルース」についてひとつ踏み込んで深掘り解説をしてみました。概念という目に見えないものであるからこそその全体像を掴み理解することは容易ではありませんが、事例等を交えながらご説明をさせていただきました。次回の記事もお楽しみに。



【Instagramの記事はこちらから!】






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