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リスク認知をフラットに

更新日:2023年8月2日

こんにちは、サニーリスクマネジメントです。

今回のブログでは、毎週月曜日にInstagramにて公開しているコラムについて深掘りと解説をしていきます。

トピックは「リスク認知」。「リスク認知:市民と専門家の乖離」と称して2023年7月17日に投稿した内容についてスロヴィックによる1987年の論文の解説を交えながら、サニーリスクマネジメントの考える「リスク認知のフラット化」をお伝えします。


米国の心理学者であるポール・スロヴィックが1987年に発表した論文「リスク認知」で明らかにしたように、まず私たちは「一般の人と専門家には知識量や質の違いとそれに伴う事象の捉え方の違いがある」ということを覚えておかなければなりません。後述しますが、専門家と非専門家では、同じ事象であってもその物事の見方や視点が大きく違います。


ここで、スロヴィックらによる研究について少し解説をしておきます。スロヴィックは、「(1)リスクをリスクと認知する決定要因は何か?」、「(2)一般のリスク認知はどれだけ正確か?」、「(3)リスクに関して賢明な行動を取るにはどのような手順が求められるか?」、「(4)リスクの技術的評価の判定が持つ役割は何か?」、「(5)人々はどのようにして危険性のある技術の利点を見出しているか?」、「(6)危険性のある技術が相対的に受け入れられるかどうかはどのようにして決まるのか?」、「(7)何がリスク分析を「受け入れられるもの」たらしめるのか?」、「(8)リスクを伴う二極化した社会紛争はどのように軽減できるのか?」という8つの仮説をもとにリスク認知についての考察を行いました。ここでは、この中でもとりわけ(1)にフォーカスしていきます。


「(1)リスクをリスクと認知する決定要因は何か?」については、スロヴィックらによる1981年の調査で説明がなされています。

上に示したのは、スロヴィックらによる1981年の調査結果をもとに作成したヒートマップです。数字が小さいほどリスクの重要性は低く、数字が大きいほどリスクの重要性を高く捉えているように示されています。この表をそれぞれ比較して見てみると、いくつかのギャップのある項目を見つけることができます。あくまでのこの研究は1980年代のアメリカにおけるものであるため、国や時代によってはこの結果通りの数値が出るとは限りませんが、同じような傾向は見出せるでしょう。このように、それぞれの立場や仕事によってリスク認知に違いが出ることが明らかになっています。例えばその違いが顕著なものに、「原子力発電」と「発電(原子力を除く)」があります。同じ発電という活動ですが、その燃料に原子力を使用するか、その他のエネルギーを使用するかでリスク認知に大きな差が生まれています。原子力発電については婦人団体と大学生で順序づけが最も低い「1」となっていますが、この数字は1986年に当時旧ソ連の構成国であったウクライナのチョルノービリで発生した原子力発電所事故をきっかけにそのリスクの大きさが一般にも認知されるようになりました。現在スロヴィックらによる同様の調査を行えば、また順序づけは大きく変動するでしょう。さらに1987年のスロヴィックの論文に立ち返ると、リスク認知において専門家の場合は「リスクに暴露する(リスクを見たり、リスクに触れたりする)頻度」を、市民の場合は「リスクが発現した(実際に事件事故や災害が発生した)際の被害や影響の大きさ」をリスク認知の尺度としていることも明示されています。


ここまでスロヴィックの調査に基づいて「リスク認知」について解説をしてきました。この調査は、専門家と非専門家間で相互に認識の違いがあるという大きな事実を示しました。現代の日本においても、住民説明やマスコミュニケーションを通じた解説等のリスクコミュニケーションやクライシスコミュニケーションの場面で認識の違いによる齟齬がしばしばみられます。サニーリスクマネジメントは、理論と日常生活のバランスの取れた共通認識、つまり市民の知識や意識と専門家の知識や意識との釣り合いの取れた地点での合意形成が図られることが最も理想的であると考えます。危機管理を行うにはステークホルダー全体での合意形成は必須であり、より多くの人が同じ方向で危機管理に向かうことが理想ですから、まずはその基盤づくりをしなければなりません。例えば、学校や地域を通した社会教育、自治体等公的機関から発表されるリスクコミュニケーション・クライシスコミュニケーションとしての情報提供などを通して市民へ危機管理について伝えていくことが必要ですが、この場合は専門家からのアカデミックな知識や理論を正確かつ平易に伝える必要がありますし、一方で情報の受け手である市民としても、緊急時に自らの身を守る方法を知るためにハザードマップを見たり、災害への備えをしたりするなど正しい知識に基づいてできる範囲で危機管理をしようという意識が必要になります。その動機づけをすることも自治体や危機管理産業の役目です。専門家や公的機関・危機管理産業と市民との歩み寄りがより良いリスクコミュニケーションを創出します。



【参考文献】

Fischhoff. B, Lichtenstein. S, Slovic. P, Derby. S. L, Keeney. R. L. (1981). Acceptable risk, United States.

Slovic. P(1987). Perception of risk, United States.



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