こんにちは、サニーリスクマネジメントです。
2023(令和5)年9月19日の朝方、宮城県沖でMj5.5の地震があり、東北地方を中心に最大震度4を観測しました。早朝の地震ということもあり驚かれたかたも多かったと思われます。地震が日常的に発生する日本では、特に若年層を中心に「揺れを感じたらX(旧Twitter)を見る」という人も多いでしょう。SNSは個人での迅速な情報発信が可能であり、また気象予報を行うアカウントや国・自治体の機関、報道各社のアカウントからも情報発信がなされるため、災害時の状況を知るのに有用なツールのひとつであると考えられます。
そんなSNSですが、今年に入ってから、その利便性が徐々に低下している可能性があります。
これまでの問題
災害に関する情報伝達でSNSが使用されるようになったのは、2011(平成23)年の東日本大震災であると考えられます。それまでにも1995(平成7)年の阪神・淡路大震災でパソコン通信によるBSSでの情報提供や「ニフティサーブ」による「地震情報」ページの開設などコンピュータを利用した情報伝達が行われていましたが、パソコン通信の場合はコンピュータを通信を利用できるだけの知識や技術と資金・時間が必要であったためそもそも現在のスマートフォンのように誰もが使えたというわけでもなく、地震で多くの建物が倒壊した被災地ではハードウェア自体が損壊しているために使用できないという問題がありました。
2010(平成22)年ごろからスマートフォンやSNSが普及し始め、スマートフォンを持って避難する、つまりハードウェアの損壊というリスクは免れるようになりました。同時に、「大きな揺れがあった」、「津波が来てる」など、ユーザーが見た景色や感じたことを実況する形で情報伝達をすることができるようになる、個人での情報発信という新たな災害時の情報伝達の形が生まれました。
スマートフォンやSNSなどの新たな技術や製品が生まれる中で、基地局や公衆Wi-Fiの整備も進められてきました。これらは平時ではシステム障害が発生しない限り問題なく利用できますが、災害によって通信環境が悪化したり、基地局自体が被災したり、輻輳(ふくそう)という通信の混雑が発生したりすることにより利用できなくなるリスクがあります。前者に関しては通信各社が、後者に関してはプラットフォーム提供者が通信の強化やプラットフォームの安定化に努めていますが、広範囲にわたる災害や局地的に大きな影響をもたらす災害が発生した場合は、どうしてもこれらのリスクを防ぎきることが難しくなります。特に東日本大震災のような大規模かつ巨大な災害となると、SNSでは地震が発生してから間も無く「読み込み中」といったローディング画面から遷移しなかったり、「API呼び出し制限」といったエラーが表示されたりしてプラットフォームが使用できない場合があります。
これらは災害時の通信やSNSにおける古典的な課題で、これらの中には災害用公衆Wi-Fiの整備などによって解決されているものが出てきている一方で、新たな課題も発生しています。例えば、SNSの発達により誰でも情報発信ができるようになったことで、災害時のデマが巧妙かつ混乱の中で拡散され話が大きくなりやすくなったという問題があります。東日本大震災が発生した2011年から5年後、さらにインターネットやSNSが発達しスマートフォンも広く普及した2016(平成28)年には「地震のせいで動物園からライオンが放たれた」という趣旨の文章とともにライオンが道路を歩いているような画像が投稿され、1〜2時間で数万件単位での拡散がなされたほか、熊本市内の動物園に問い合わせが殺到した例がありました。問い合わせのあった動物園自身も被災し施設の多くが損壊していたり、夜中に飼育している動物の安全を確かめたりといった業務があった中での出来事でした。SNS利用者の中でも、画像の作り込みや地震による気の動転、SNSで災害時にデマが流れるという認識の薄さなどが相まって、一度冷静になって見てみると合成画像だと判るものであっても瞬時に拡散されてしまったのです。
SNSマーケティングと情報伝達
Statistaによれば、Xの全世界利用者数は2022年で約3億6,800万人。また、2023年1月の国別利用者数を見てみると、日本はアメリカに次いで2位の6,745万人となっており、未だ多くの人に利用されていることがわかります。ただ、この約6,800万人の全てがリアルな人間のユーザーというわけではなく、自動投稿を行う、いわゆる「Bot」も存在しているでしょう。また、XについてはCEOの交代とともにプラットフォームのあり方や運営方針が大きく変更となったこともあり、災害時の情報伝達にも影響が現れ始めています。
例えば、API制限の強化により、災害発生情報や避難情報等を自動投稿で提供するアカウントの活動が制限された例があります。災害や避難に関する情報に求められる要素のひとつとして「速報性」があり、それを実現しているのが自動投稿ですが、一定時間内に発信できる投稿数等の操作が制限されたことで、速報性もさることながら、時間を追っての細かな情報提供が難しくなりました。
さらにここ数年で増加したのが、「トレンドワードを利用した投稿」。トレンドワードとは直近数時間で最も検索された言葉であり、このトレンドワードには大抵世界的なニュースや国内での大きな出来事、エンタメ・スポーツのニュースやそのプラットフォームならではのネタや企画など、多くの人が関心を持ったり発信したりする情報に関する言葉が上がります。近年はSNSの中でも悪質なサイトへの誘導を狙ったアカウントや「モノなしマルチ(情報商材等の無形の商品を扱うマルチ商法)」・副業サービスにおける利用料獲得や情報商材の販売を目的としたアカウントやスパムアカウント等の一部では「トレンドに便乗する」ことでインプレッション(投稿の閲覧数)を獲得しようとする動きが強く、これが災害情報の伝達とぶつかっている事例がよく見られます。
例えば2023年9月19日早朝の地震を例に考えてみましょう。地震発生とともに国内の一部地域では緊急地震速報が発表され、最大震度が5弱と推定される内容が発信されました。ここから「震度5弱」という言葉が一気にトレンドワードに上がります。この要因としては、まずプラットフォーム内にある地震情報の速報アカウント(より大きな地震の場合は国や自治体も含む)等が一斉に「予想最大震度5弱」などの文言を含んだ投稿を行うと同時に、緊急地震速報やその投稿を見た人、揺れを感じた人が前述の投稿を見たり調べたり、また、「震度5弱の地震だって」、「今の地震、震度5弱らしい」というように「震度5弱」という言葉を含んだ投稿をしたりすることが挙げられます。これはSNSの特性上自然な成り行きであり、どこでどのくらいの揺れを観測し、どのような被害が出たかを即座に確認するのに有用であるため、災害時の情報伝達としても機能しています。また、「早朝に大きな揺れが来て怖かった」、「緊急地震速報の音で驚いた」といった恐怖や動揺を和らげるために、自らの感じたことと同じような投稿を見つけて安心したいという意味で、揺れを感じた人の反応を知りたい人もいたかもしれません。
それが、「震度5弱」という言葉で検索してみると、緊急地震速報発表直後は地震に関する反応や安否を心配する声が上がったものの、数十分経過すると、投稿の7〜8割程度は「震度5弱」というワードを含んでいるだけで実際には地震や被害に関連する情報は含まれていないものばかりなのです。当然ながら地震に関する投稿も見られますが、どこがどのくらい揺れたのか、震源やマグニチュードを調べようとしたり、地震を観測した場所の反応を見てみようとしたりして検索すると、先述の「トレンドに便乗することでインプレッションを獲得しようとするアカウントの投稿」で溢れていて、本当に得たい情報を得ることができないということが発生しています。
優先度の兼ね合い?
災害時のSNSの理想形として、①通信の途絶や輻輳がなく利用できる状態であること、②デマや流言がないこと、③被災者個人が提供できる細かな情報(孤立・道路寸断や避難中に見えたもの等その地域独自の情報・災害を受けての所感等・安否情報)が残ることが挙げられます。先述の件はまさに③被災者個人が提供できる細かな情報が残ることに関する課題です。先述のように、災害に関する言葉を含んでおきながらも関係のない情報を発信している投稿は災害発生の数十分後を目処に急増するため、人々が避難したり避難し終わったりした時と重なる可能性があります。M7クラスの地震や大規模な冠水、火山噴火等が発生したときにSNSでこのような現象が起きると、「欲しい情報が得られなかった」ということがより深刻になるでしょう。
トレンドから被害に関する情報を効率良く得るには、「トレンドに便乗することでインプレッションを獲得しようとするアカウントの投稿」が見えないようにするしかありません。その方法としては、そのような投稿をするアカウントをブロックしたり凍結されるのを待ったり、それらの投稿で使われやすい単語をミュートしたりすることなどが挙げられます。ただ、ひとつひとつ対応していては多くの手間を要する上、そういったアカウントは次々に出てくるので、同一のプラットフォーム上でこの状況を打開するのは難しいかもしれません。
日本に住んでいる私たちからすれば、災害発生時のSNSにおいては災害に関する情報が優先された方が便利だと考える人が多いかもしれません。また、実際にトレンドワードでインプレッションを得ようとするアカウントに対して、「災害(という人命に影響の出る事柄)を利用してインプレッションを獲得するのは不謹慎ではないか」、「地震情報を調べたいのに半強制的に不適切な投稿を見せられて嫌な気分になる」という声も上がっています。
それが一転、海外から日本語で発信しているスパムアカウントやインプレッションによる収益化を狙っているアカウントからすると、地震はその災害の性質も影響して、トレンドワードの中でも短時間で大きなインプレッションを得られるものなので、「好機」と捉えるかもしれません。実際に、今回の「震度5弱」で多くのインプレッションを得たアカウントの中には、「トレンドワードでインプ(レッション)稼げた!」といったリプライでの会話も見受けられています。トレンドに便乗するという方法は以前から存在していましたし、Botによる投稿であればなおさら便乗するトレンドワードを選ぶことができないので結果的に災害に関するトレンドワードを掲載してしまった可能性もあります。それでも、どの状況でどのような情報が優先されるべきか、プラットフォーマーが検討し表現の自由の範囲内で一定の規制を加えることも検討されなければなりません。また、各アカウントにおいて運用に際して投稿の時機や言葉を選ぶことも健全で「得たい情報が得られる」プラットフォーム運営に必要でしょう。
#サニーリスクマネジメント #リスクマネジメント #クライシスマネジメント #リスクコミュニケーション #クライシスコミュニケーション #SNS #ソーシャルメディア #災害 #情報伝達 #コミュニケーション
Comments