こんにちは、サニーリスクマネジメントです。関東甲信では寒の戻りで冷たい雨や雪の日が続き、交通障害が懸念されています。その一方で東北の岩手県・大船渡の山火事は乾燥状態が続き約2,600haを焼く災害となっており、さまざまな被害が発生している状況です。
今回の記事では、この山火事について、2025年3月4日正午までの情報をもとに被害の全体像や被害状況、火災の原因について検討していきます。
大船渡の山火事はいつから始まった?市の対応と主な被害は
大船渡市で火災の発生が確認されたのは、2025年2月26日の13時過ぎでした。合足漁港付近にいた人からの通報で覚知されたこの火災は四方八方に広がり、消失面積は発生から1週間で約2,600haにまで広がり、さらに延焼しています。

火の勢いはおさまることなく、住宅街や産業にまで影響が出始めています。消防や自衛隊から多くの人員や機材を投入しているものの止まらない火災。しかし、危機管理的側面から見れば市の対応は極めてスピーディーであったと考えられます。林野火災は一度火が付くと一気に燃焼し範囲が拡大するという特性がありますが、それに合わせて迅速に本部の設置や避難所の開設を行ったことは評価に値するでしょう。
表1 2月26日の市の対応(大船渡市, 2025をもとに作成)
時間 | 内容 |
13:02 | 火災発生覚知 |
13:33 | 大船渡市災害対策本部設置、県に自衛隊派遣要請 |
13:50 | 最初の避難指示発令(三陸町綾里打越) |
14:40 | 最初の避難所開設(市内2箇所) |
14:50 | 県に緊急消防援助隊要請 |
19:00 | 災害救助法適用 |
市の対応を時系列で見てみると、火災の発生を確認してから約2時間で災害対策本部の設置から避難指示発令と避難所開設、自衛隊や緊急消防援助隊の要請など、住民の命を守り火災を少しでも早く鎮火し食い止めるための対応を行っていたことが窺えます。この間にも、26日16時10分までに10箇所の避難所と4箇所の福祉避難所を開設したり、保安停止に伴うライフラインの調整を実施したりとさまざまなクライシスマネジメントを進めました。延焼が進み焼失範囲が広がっていく中で、迅速な対応がなされています。
この山火事で、人的被害として死者1名が確認され、物的被害は民家等多数とされています。住家被害は火災が鎮火するまで確認できないため、2月26日22時40分の被害想定で84戸が焼損した可能性があるとされています。避難指示は3月1日7時30分時点で1,896世帯の4,596名が対象となっており、市内の避難所に避難したのは1,215人と車両631台、避難所以外の場所に避難しているのは2,726人で、避難者としては合計3,941人が確認されています。この人数は大船渡市の人口の実に約12%にあたります。
火災に伴い、交通規制が発生していたり、一部地域ではライフラインの停止も確認されていたりします。ただ、ライフラインについては焼失地域が対象であったり、あらかじめ供給を停止させる保安停止によるものであったりするため、早急な提供や復旧は不用または不可能です。
山火事収束のためにどのような対応がなされている?
この山火事の収束のために、さまざまな機関が活動しています。まず、大船渡市は火災の発生が確認された26日中に、県に対して自衛隊派遣・緊急消防援助隊要請を行い、3月1日には県に対し応援職員の派遣を依頼しました。
3月4日は、地上で大船渡地区消防組合などの地元消防、緊急消防援助隊(1都12県)、県内応援隊が、空中で自衛隊のヘリコプター9機、防災航空隊(1道5県1市)のヘリコプター7機が消火にあたっています。消火に関しては、火災現場付近に湖やダム、川などがなく消火栓が少ないために給水が地上頼りになっていたり、強風や煙による視界不良でヘリコプターの運用が難しかったり、ヘリコプターの機体が錆びる恐れがあるために海水を使用した消火活動ができなかったりとさまざまな課題があり、地上での消火活動に頼る部分が大きくなっています。
また、大船渡市には、3月1日と2日に同県の遠野市・陸前高田市・釜石市の職員が、3日には岩手県の職員が応援職員として派遣され、大船渡市の災害対応をサポートしています。このほかにも、26日からは保健所による保健活動や感染症対策が、28日からは市社会福祉協議会が災害ボランティアセンターを設置。市内のボランティア活動希望者の受付やニーズ収集、日用品・非常食等の配布を行っています。さらに、27日には市のホームページで「山火事警戒宣言の発令について」を公表。さらなる山火事の発生を防ぐためのリスクコミュニケーションも実施しています。
猛烈な山火事…その原因は?
実は、26日からの火災が広がる以前、大船渡では19日にも林野火災が発生していました。また、隣市の陸前高田市でも25日に火災が発生。19日・25日いずれの火災も、再燃の可能性がない「鎮火」状態ではなく、あくまでも火の勢いが消防隊のコントロールできる程度で拡大の危機性がない「鎮圧」状態であり、再燃の可能性があった状態で同時多発的に火災が発生しました。乾燥した空気と沿岸から吹き寄せる風によって、山火事で発生した炎は山の斜面を駆け上がるように延焼。さまざまな要素が重なって規模が拡大しています。
こうした不確実な状況や不安な気持ちが続く状態できまって発生するのが、デマです。X(旧Twitter)をはじめとしたSNSでは、「山火事は山をレーザー兵器で焼き払っている」「エネルギー兵器のせいで山火事が発生した」といった突飛な偽情報が拡散されています。
多くの人々が市からの情報や報道された情報を参考にしており、上記の情報が本当だと信じている人は少ないと思われますが、こうした偽情報やデマは正しい情報の伝播を阻害しディスインフォメーションを生みます。実際のところ、消防は火の勢いが強く原因の特定や検証まで進めていない段顔であり、市でも火災の原因ははっきりしないとしていますが、県警からは「作業小屋から火が出て燃え広がった可能性がある」との見解を示しています。災害に関しては公的機関からの情報を確認するのが最も的確です。
では、一般的な山火事の原因にはどのようなものがあるのでしょうか。林野庁(2024)によれば、山火事の出火原因として主にたき火や火入れが挙げられることが分かります。火の不始末や、想定よりも燃え上がり制御ができなくなったなどのケースが考えられます。一方、自然的理由(落雷による発火など)は稀で、やはり原因のほとんどはヒューマンエラー(火の不始末や不注意)なのです。

また、山火事が発生しやすいのは1月から5月であり、今回の山火事も2月に起こっていることからこのピーク時期と重なっていることがわかります。ただ、実際のピーク月は実は4月。春は山でのレジャーや山菜取りなど、普段から山に入らない人の来訪も増加するため、山での火の扱いに慣れていないことから不始末が起きてしまうこともあります。
ここまで一般的な山火事の原因を見てきましたが、上述の内容を振り返れば、やはり大船渡の山火事の原因も火の不始末などの人為的なものであると考えるのが自然でしょう。
山火事収束の見込みは
大船渡の山火事は拡大を続け、消火活動や避難の長期化が懸念されています。消火にあたっている緊急消防援助隊等では人員の交代を検討し長期の活動に備えている自治体もあり、この火災がいつまで続くのかという不安があります。
人の手で抑えられないほどの勢いで広がる山火事ですが、「雨が降ってくれれば」と考える方もいらっしゃるでしょう。気象庁(2025)によれば、岩手県沿岸南部の天気は5日に雪か雨、6日にくもり一時雪か雨となっています。ただ、4日は乾燥注意報が継続的に発表されており、雪か雨が降るまでは延焼が続く可能性があります。
今冬はカリフォルニアなど海外でも大規模な山火事が発生していましたが、大船渡でも大規模な火災が発生したことで、山火事は海外だけの話ではない、身近に起きる可能性もあるのだとそのリスクをひしひしと感じた方もいらっしゃるでしょう。前述のように、山火事の原因の多くは人為的なものです。日本でさらなる山火事を起こさないために、それぞれの地域を山火事から守るために、山での活動やレジャーが増える春先まで、火の扱いや不始末には細心の注意を払って過ごしましょう。

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