top of page
執筆者の写真Hinata Tanaka

家畜感染症と防疫(豚熱編)

こんにちは、サニーリスクマネジメントです。

今回のブログでは、私たちの生活を支える畜産業に焦点を当て、今年9月5日に農林水産省が九州7県を接種推奨地域に加えることを正式に決定した豚へのワクチン接種について、リスクマネジメント・クライシスコミュニケーションとしてライシスマネジメント図ります。


【今回のブログでは一部にセンシティブな内容を含みます、あらかじめご了承ください】


いま、世間では


今月に入ってから全国的な報道でも取り上げられている養豚ですが、私たちの生活にも非常に身近なものかと思われます。まず、豚肉といえばあらゆる食品の中でもトップクラスのビタミンB群含有量を誇るほか、代謝向上に効果的なアミノ酸も含まれ疲労回復に効果的な食品として知られています。このほかにも、革製品としての利用や健康食品・化粧品等に使用するためのコラーゲンの抽出、ヘアブラシやシューズブラシへの毛の利用など食品としてだけでなく、日用品としても利用法が知られています。


豚熱に対するワクチン接種推奨地域の拡大が決定されてから、人々の間では豚熱やワクチン接種に関してさまざまな疑問や考えが交わされています。SNSでは、次のようなものが見られました:


・豚熱や豚熱ワクチンで人体にも影響が出るかもしれない

・以前豚コレラが流行したが、今度は豚熱という別の病気が出てきた…?

・なぜヒトに感染しないのに処分されなければならないのか?


これらの3つの不安や疑問の声について、それぞれ見ていきましょう。


そもそも豚熱とは何か


そもそも豚熱とはどのようなものなのでしょうか。豚熱は、豚熱ウイルス(Classical Swine Fever)により起こるブタ・イノシシの熱性伝染病で感染した個体やその体液への接触で感染が拡大します。宿主(しゅくしゅ:感染対象)はブタとイノシシのみで、アジア・ヨーロッパ・アフリカ・南米の一部などに分布しています。豚熱ウイルス(CSF)は伝染力が強い上に致死率も高い一方、治療法がないため、対応方法は、感染個体を処分し、未感染個体に対して防疫(流行を予防する措置)を実施するほかないのです。


豚熱は、日本においては1992(平成4)年以降確認されていませんでしたが、2018(平成30)年に国内の養豚場2件・野生のイノシシ3件等で豚熱ウイルスの感染が確認されており、2020(令和2)年には本州と沖縄を中心に相次いで感染が確認されたものの各県で処分や経口ワクチンの接種を繰り返し一旦は落ち着きを見せました。ただ、2020年9月に再び豚熱ウイルスの感染が確認されており、現在までワクチン接種や処分などの防疫を通して感染拡大防止・封じ込めへの対応が進められてきました。また、野生のイノシシの感染状況の把握体制も強化されています。最近大きく報道で取り上げられた豚熱ですが、実は少なくとも3年前から防疫の取り組みが行われています


人体への影響は


新型コロナウイルス感染症の流行の影響もあり、私たちは以前よりもウイルスや衛生により気を遣うようになりました。今回の豚熱に関しても、発生以降、常に多くの人が不安に思われていることの中に「人間は大丈夫なの?」ということがあると考えられます。


豚熱の原因であるCSFウイルスはブタやイノシシが感染するものであって、ヒトには感染しません。豚熱発生以降は出荷に関しても以前より厳しい基準や検査が設けられており、感染した豚の肉が市場にまず出回ることはありません。また、農林水産省によれば仮に豚熱にかかった豚の肉や内臓を食べたとしても人体に影響はないとされており、世界的にも豚熱に感染した豚の肉等を摂取したことによるヒトの症例は報告されていません。


さらに、豚熱の感染拡大防止のために未感染個体に使用するワクチンは病原性を低くしたCSFウイルスと、添加剤として塩化ナトリウム・精製水・乳糖(普段食品や食品中に含まれるものとしてヒトも摂取しているもの)・ポリビニルピロリドン(*1)・リン酸水素二ナトリウム・リン酸二水素ナトリウム(*2)(食品衛生法で定められた食品添加物)で造られており、添加物に関しては人体の健康に影響しない分量となっています。

(*1)PVPとも呼ばれ、水溶性。類似のポリビニルポリピロリドン(PVPP)はビールの濁り防止や茶の渋味低減に使用される。食品添加物と定められているが食品中には残らず、PVPPに対する日本の食品添加物規格の一部は外国よりも厳しいものとなっている。

(*2)前者は食品添加物においてはpH調整剤として食品に、後者は飼料に添加されるほか食品添加物においては乳化剤等として添加される。また、両者はヒトに対する医療においては経口腸管洗浄剤として使用される。


CSFワクチンは1969(昭和44)年に開発され、長きにわたって使用されてきました。また、豚熱の予防については近年需要が高まっているミニブタやマイクロブタなどのペット用のブタに対しても定期接種が行われています。このようにして見てみると、意外にもCSFワクチンは身近なものに感じられるかもしれません。豚熱や豚熱を予防するCSFワクチンによって、私たちの健康に影響が出ることは考えにくいでしょう。


豚熱と豚コレラは別の病気?


以前は「豚(とん)コレラ」という言葉のほうがよく聞かれていたため、「豚熱(ぶたねつ)」と言われてもピンとこない……そんなことがあるかもしれません。


結論から言うと、「豚熱」は「豚コレラ」から名称が変わったもので、同じ病気を指しています。豚熱はCSFというウイルスがブタやイノシシに対して感染することで発生する一方、ヒトが感染するコレラはコレラ菌という細菌が感染することによって発生するものであって、そのメカニズムも全く異なる上に、科学的な関連性も存在しません。ただ、やはりその名前から無関係ながらもヒトのコレラを想起させてしまうために、2020年5月に家畜伝染病予防法を改正し、正式にその名称を「豚熱」に変更したのです。豚熱と豚コレラは名称が違うだけで、同じものを指しています。


各個体にも配慮


近年は動物福祉・アニマルウェルフェアの考え方が進展し、動物が感じる痛みやストレスを最小限にすることで、人間だけでなく動物にもより良い生活を営んでもらうという取り組みも広まってきました。そのような意識が広まっていく中、豚熱における防疫活動に対して、「なぜヒトに感染しないのに処分されなければならないのか?」という疑問が生まれています。


先述の通り、豚熱は致死率が高く治療法のない病気であり、かつ、感染力も強いため、治療法がないにも関わらず治療のために生かし続けることよりも少しでも早く防疫に乗り出すほうがウイルスの蔓延を防止し克服することに繋がる可能性が高いのです。豚熱は発熱や食欲の減退だけでなく下痢、歩行困難、けいれん、結膜炎など様々な症状が出る可能性があります。一頭でも豚熱で苦しむ個体が減ったり、苦しむ期間が短くなったりすることも、アニマルウェルフェアにつながるかもしれません。


感染した個体の処分に関しては都府県によって細かな対応は異なりますが、概ね、当該個体を柵で覆ったりシートで隠したりして他の個体に見せない・脱走させないなどの一般的な工夫や、症状が出ている個体を優先し他の個体が感染するリスクを減らしたり、可能な限り鎮痛剤や麻酔薬を使用してから処分を行なったりするなど、アニマルウェルフェアに対しても配慮がなされています。ただ、それでも、ひとつの養豚場で感染が発生した場合、防疫を行わなければ瞬く間に一定の地域内外に感染が広がり、養豚業界や畜産業界に大きな影響が及びかねないのです。


クライシスコミュニケーションとして


畜産業界に影響が出れば、飲食業界や小売業界など、その影響は巡り巡って家庭──私たちの手元までやってきます。ヒトの感染症でないから我々人間は大丈夫というわけではなく、人間の生活にも大いに関係する出来事なのです。また、全国様々な箇所での豚熱発生以来、随所で風評を伴う買い控えが起きています。


今回の記事で、豚熱はヒトに感染しないこと・豚熱に感染した個体の肉等は市場で販売されないこと・CSFワクチンの安全性が担保されていることなど安全安心を判断できる情報を提供することができれば幸いです。このようなクライシスではまず主務官庁や監督官庁、自治体、マスメディア等が正確な情報を市民に伝えることが必要です。危機管理産業の一端を担うサニーリスクマネジメントとしても、民間の目線からクライシスコミュニケーションに参加できればと考える次第です。




最新記事

すべて表示

コメント


bottom of page