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災害対策と環境保護を叶える: Eco-DRRの推進

こんにちは、サニーリスクマネジメントです。

今回のブログは、新しい防災のかたちについて。危機管理には規則・制度や人々の意識の面からアプローチするソフト対策と、インフラ整備などの物理的な面からアプローチするハード対策がありますが、近年、災害におけるハード対策に関して、防災・減災だけでなく環境保護にも同時に取り組もうという動きがあります。


災害が頻発する現在、持続可能性のある新たな防災・減災のかたちとしてEco-DRRという考え方が注目を集めています。今回は、この「Eco-DRR」について、その概念や取り組みの内容と、実施主体によるメリットや、より良い実施のためのポイントを、活動主体別にみてみましょう。


自然の力を防災に、Eco-DRRとは?

Eco-DRR(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction: 生態系を基盤とした災害リスクの低減/生態系を活用した減災・防災)とは、生態系を活用して脆弱性を小さくしたり、危険な自然現象への曝露を回避したりすること*です。Eco-DRRは2008年に国連機関・国際NGO・研究機関が連携して設立した「PEDRR(Partnership for Environment and Disaster Risk Reduction: 環境と災害リスク削減のためのパートナーシップ」に端緒があり、2010年代に入ってから世界的に注目されるようになってきました。

毎年様々な種類の災害を多く経験し、数々の発災から復旧・復興を経験してきた日本は、その経験やそこから得られた知見・教訓を活かしEco-DRRの普及以前から、JICAを通じて途上国を中心に生態系機能を活用した防災や減災を実施しています。


Eco-DRRは、人工的なインフラ整備による防災・減災と比較して、生態系が起こす複雑な影響をマルチに活用することによる多機能性と環境負荷の回避に優れています。特に後者については、人工的なインフラの場合自然環境を人工的に変更せざるを得なくなることよる環境への影響が懸念されたり、防災インフラの老朽化ために持続性のある維持管理が課題であったりする一方、Eco-DRRでは自然環境そのものをゆるやかに変更していく取り組みのため、環境負荷を最小限にすることができます。具体的な手法としては、防災林(防風林・防潮林・防砂林等)の設置による住宅や田畑への風や塩分、砂による影響を小さくしたりするものや、湿地等の整備により川の緩やかな流れを作ることで洪水が発生しづらい地形を作るものがあります。


参考: 内閣府(防災担当)(2019)「途上国で広がる生態系を活用した防災・減災」, 『ぼうさい』, No. 95, pp. 20-21, 日本:内閣府(防災担当). /日本学術会議統合生物学委員会・環境学委員会合同自然環境保全再生分科会(2014)『提言 復興・国土強靭化における生態系インフラストラクチャー活用のすすめ』, 2014年9月19日, 日本:日本学術会議.


森


Eco-DRRのメリットとウィークポイント


環境にやさしい災害ハード対策であるEco-DRRには数々の利点がある一方、実施や推進における課題もあります。ここからは、Eco-DRRのメリットとその課題を見てみましょう。


まずはメリットです。Eco-DRRには、次のようなメリットがあります:


①自然環境の保護・回復による持続可能性の創出

②防災・減災だけでなく生態系の保全や地域経済の促進に繋げることができる

③人工的なインフラ整備と比較して低コストで実施できる

長期的な防災・減災の効果が期待できる場合がある


まず、①はEco-DRRのメインの要素ともいえるもの。自然環境を保護したり回復したりすることで、その地域における自然を守りながら防災・減災を実施することができます。②の生態系の保全や地域経済の促進とは、Eco-DRRを実施することにより、その地域の生物や植物の多様性を守ったり、園地等を整備して暮らしやすさの向上や観光収入をつくったりすることを意味しています。また、③に挙げたように、Eco-DRRは植樹をして木を増やしたり、反対にあえて災害リスクを増大させる可能性のある自然に触れないようにしたりと、もともと存在している自然環境に対して少しだけ手を加える、あるいは手を加えないようにするアプローチをとるため、堤防やダムの設置等の人工的なインフラ整備よりも低コストで施策を進めることができる可能性があります。さらに、④Eco-DRRによってゆるやかに自然環境を変化させていく中で、風水害など、比較的時間をかけて発生する災害や毎年発生が予想される災害に対する長期的な防災・減災が期待できます。


一方で、次のようなウィークポイントもあります:


①'すべての災害に対応できるとは限らない

②'効果の予測が難しい

③'専門知識や技術が必須である

④'短期的な防災・減災には向いていない


①'で述べているように、Eco-DRRは持続可能性がある反面、地震などの突発的な災害への対応は難しいと考えられます。また、②'のように、Eco-DRRの実施は生態系の状態や地理的・気候的条件に左右されやすく、いつどこでどのような施策を取ることでどのような効果が期待できるのか、どのようなリスクとのトレードオフが発生するのかを緻密に予測することは容易ではないと予想されます。そして、Eco-DRRの実行には、③'専門知識や技術が不可欠です。特に、生物学や環境学を中心とした自然環境に対する見識が重要で、このほかにも災害や気象に関する知識、その土地の生態系に関する知識、また、それらの知識をもとに施策を実施するだけの技術が求められます。また、Eco-DRRは長期的対策に向いている一方、④'短期的対策には向きません。これには、生態系の回復や再生には長い年月が必要であり、自然環境はその生態系に属する生物や植物が数世代にわたって育っていく中でゆっくりと変化することが関係しています。


効果的なEco-DRR実施のためにできること


Eco-DRRは①政府、②地域コミュニティ、③NGO、④企業などの様々な主体が実施することができます。主体によってEco-DRRの実行におけるメリットと課題があり、効果的な実行にはそれぞれの主体が協力することも手段のひとつとして考えられます。


政府が実施する場合、法律等による強力な施策が期待できるほか、政府自身が中心となって実行できるという利点があります。一方で、資金や人的資源に制約があるほか、政策の実施の是非・実施した場合のスピード感や達成度に懸念があるため、官民連携なども視野に入れる必要があります。

地域コミュニティが実施する場合は、その地域の環境や地形に関する豊富な知見があることから、大きな主体のひとつになることができるでしょう。また、地域コミュニティが主体的に活動することで、参加者が防災やレジリエンス向上を肌で感じ地域や防災にさらなる関心を持つことのできる社会教育の機会を創出することにも繋がります。ただ、地域コミュニティだけでは資金や技術・専門知識が不足する可能性があるため、①と折衷して大学などの研究機関や市町村が住民を巻き込む形で行うことで実現性が高まるでしょう。災害における復興フェーズにおける住民主体のまちづくりで地域コミュニティ主体のEco-DRRを提案することも可能です。

NGOが実施する場合、専門知識や資金がベースとして存在していることと政府や地域コミュニティと連携しやすいことが利点です。国際NGOであれば国境を超えた活動も可能で、活動地域が多いこともメリットとして挙げられます。NGOが実施する場合は、知識や技術が先行し、現地の文化やニーズを組み込まずにプロジェクトを行うことがないよう、その地域との連携を密にすることが求められます。

企業が実施することの最大のメリットは、豊富な技術や資金です。企業にとっては、エコフレンドリーやSDGsフレンドリー、災害対策への注力などCSRにおけるアピールにもなります。ただ、Eco-DRRは効果の予測が難しく長期的な取り組みであるため、利益追求が難しくビジネスとして展開することが困難となる可能性があります。


また、Eco-DRRを効果的に実施するには、ステークホルダーがプロジェクトの根拠や効果・トレードオフになるリスクなどについて理解できるよう、説明や協議の機会を十分に設けて周知や教育を行うこと(リスクコミュニケーション)が重要となります。


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