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執筆者の写真Hinata Tanaka

移民問題から考える日本社会

こんにちは、サニーリスクマネジメントです。

2023年9月に入ってから、イタリアの移民政策が強化されています。移民の対応についてイタリアはEU主導の政策を求めているほか、イタリア政府においても収容施設の増加や拘束期間の上限の延長による送還に向けた対策が強化されています。

今回は、特に欧州、イタリアで顕著な「移民問題」を軸に、イタリアの現状から発展して日本社会についても考えてみましょう。


移民の定義


「移民」とひとくちに言っても、実はこの言葉の中には様々な人の移動が定義されています。移民問題について考える前に、まずは「移民」の定義についてみておきましょう。世界的な人の移動に関する問題や課題を扱う機関であるIOM(International Organization for Migration: 国際移住機関)によれば人の移動には自発的なものから非自発的なものまでグラデーションがあり、自発的なものには海外旅行・海外赴任・留学や研修・家族統合(国際結婚等)が、中間に機会欠如(出稼ぎや労働のための移住)が、非自発的なものには貧困(人身取引や密入国)・自然破壊や環境災害・紛争/迫害や人権侵害が挙げられています。


移民を受け入れる側から考えた場合、当然ながらメリットとデメリットがあります。メリットは主に高齢化によって縮小する労働力の補完や国内経済下落防止のための支えになる程度の経済の産出、新たな技術の伝承があります。また、海外旅行に着目した場合は旅行の中でのアクティビティやショッピングから生まれる経済効果も期待できます。デメリットとしては主に企業や宿泊施設・貸家等受け入れのためのハード・ソフト整備が必要となることや不法移民の流入に伴う治安の悪化、独占技術等の国外持出し、社会保障費の向上が考えられます。また、自国民と移民との文化や考え方の摩擦を少なくするなど、現在の社会を可能な限り保つための取り組みや工夫が必要不可欠です。


今回の記事で扱うのは、主に上述のグラデーションのうち中間にあたる機会欠如と、非自発的な移民です。では、イタリアの移民問題についてみていきます。


移民にとっての欧州の入り口


イタリアには機会欠如で流入する移民の問題と非自発的な理由で流入する移民の問題と、2つの問題があります。まず1つ目の機会欠如での移民ですが、主に彼ら彼女らは仕事や勉強のためにイタリアに移住します。イタリアは古くから芸術や学問の歴史があり、また、イタリア料理の本場でもあるため、アトリエで芸術を学んだり、大学で学問を学んだり、またイタリア料理店で料理の経験を積みたいという理由で世界中から移住者が集まります。ただ、イタリア国内でそれらが認められるためには厳しい基準があります。イタリアの同業者組合は大部分がイタリア国民にしか開かれておらず、なおかつ加盟には学歴や職歴のほかに試験に基づく判断など厳格な加盟基準があるため、外国人である移民にとっては、同業者組合と関わる以前に雇用主にそういったスキルやレベルを認めてもらうところでつまづいてしまうのです。また、現在の政策で国内経済の回復に際して外国人労働者による労働力は積極的には使用しないとされていることもあり、そもそもの就労や市民権獲得が厳しいことに加え、長年続いてきた職業訓練や外国人労働者を登用する仕組みも停滞しはじめています。


2つ目の非自発的な理由での流入は、主にアフリカ大陸から集まった移民がチュニジア等を経由したりや東欧からの移民がバルカン半島を経由したりしてイタリアに入国しようとする場合です。これらは非自発的な理由であるため、労働を求めての移民の他に、貧困や現地の治安の悪化、旱魃(かんばつ)等の厳しい自然環境、紛争等から逃れるために移住する人がほとんどです。また、前者のように資金を持っているわけではないので、ボートに数十人を乗せた状態で海を渡って入国しようとしたり、列をなして森の中を歩いてイタリア国内の村などを目指そうとする、つまり密入国によって辿り着きます。イタリア当局によって摘発・救助される場合もあれば、道半ばで沈没したり山火事に巻き込まれたりして、周辺国の当局が発見する場合もあります。前者の問題は多くの国で見られますが、これはアフリカや東欧など経済や社会の状況が比較的不安定な地域から船や地続きで移動しやすい場所であるというイタリア特有の問題です。


2つの問題に共通しているのは、「イタリアは玄関口にすぎない」ということです。もちろんイタリアを目指して移動する人もいますが、特に前者に関しては、イタリアでの就職が難しかったためにイタリア国内での単純労働で収入を得るか、技術のある場合は他国へ移動するという人も少なくありません。イタリアにさえ辿り着けさえすればスペインやフランス、オランダなど他国にも移動できるため、技術などの面で外国に選択肢のある人はイタリアの外へ向かいます。


日本の移民受け入れ


日本にいると「移民」という言葉は聞き慣れないかもしれません。それでは、「技能実習生」はどうでしょうか、耳にしたことのある方も多いでしょうし、実際に職場を共にしている人もいらっしゃるでしょう。「技能実習生制度」は日本が独自に有している技術を他国の人々に伝えることや国際貢献を目的とした制度であり、あくまでも労働力としてではなく、主に発展途上国の人々に対して日本の技術を伝え、それを自国に持ち帰ってもらい自国の発展に繋げてもらうための学習や研修として存在しています。技能実習生制度はその目的と実態の乖離等から2022(令和4)年より廃止が検討されはじめていますが、その一方で少子高齢化に伴う人口減少等を受けて、外国人労働者の在留資格である「特定技能」のうち「特定技能2号」(熟練した技術を伴うもの)に含む業務を増加し、より外国人労働者を受け入れる方針が2023(令和5)年6月に日本政府により決定されています。日本での移民の受け入れは基本的にIOMによる移民の定義における「自発的なもの」から「機会欠如」にあたるものがほとんどで、上述の技能実習や特定技能といったものも就労を伴うものであり、これらに相当します。「非自発的なもの」にあたる難民に関しては、難民条約加入前の1970年代に国際人道協力やアジア情勢の安定の側面から、1978(昭和53)年〜2005(平成17)年にわたって、ベトナム戦争や戦争終結後のインドシナ半島から流出した「インドシナ難民」(ベトナム難民・ラオス難民・カンボジア難民)約1万名を受け入れたのを最後に、日本では「難民」という政治的概念が存在せず、また受け入れも世界各国の中でも特に少ない状況が続いています。また、2022年のロシアによるウクライナへの侵攻によるウクライナから日本への避難民についても2023年9月半ばで約2,000名が受け入れられています


一方、日本への移民の中には在留資格を失ったり、在留期限を過ぎたりしていても滞在している無資格移民も存在しており、出入国管理庁によればその人数は2023年1月で約7万人にのぼるとされ、2022年1月と比較して5.6%増加しています。特に超過滞在(オーバーステイ)の場合、退去強制処分などの行政的なものに加え、裁判にかけられたり懲役刑が科されたり、出所後日本に入国できなくなったりする可能性がある重大なものです。また、国内のブローカーが関係して密入国や不法就労、証明書の偽造等が行われており、密入国に関しては朝鮮半島や中国大陸に近い九州北部の沿岸で不審船が発見されたり、東京や横浜、名古屋などの比較的大きな港に向かう貨物船等のコンテナ内部に乗って密入国を試みた人が発見されたりというケースがあります。ほとんどは水際で摘発されたり、国際的なインテリジェンス活動により事前にそのリスクを察知されたりしていますが、日本人と移民である外国人の摩擦や企業からの機密情報の持ち出し事案等も発生しており、外国人労働者受け入れ拡大の一方で、より厳格な規制や警戒の強化が必要となる可能性があります。


どの国でも移民の受け入れによるメリットとリスクが存在し、それらは各国共通のものもあれば、それぞれの国や地方によって異なるものもあります。いずれにせよ、どのような移民を受け入れるかを明らかにし、自国の社会の保持や国際協力・国際貢献との兼ね合いを見ながら、最適な政策を考えることが移民政策の成功につながるのかもしれません。






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