こんにちは、サニーリスクマネジメントです。
2025年最初の記事では、年末から年明けにかけて報道にも上がっている青森県の豪雪に関して、その原因と考えられる線状降雪帯に関する気象の側面からの情報や、青森県内での被害と県の対応について危機管理の視点からお伝えします。
青森県はこの豪雪を「災害」であるとみなし、2025年1月4日に豪雪対策本部を立ち上げました。早期の立ち上げによって被害状況や交通情報の収集が進み、復旧やクライシスマネジメント(事後対応)も行われています。
線状降雪帯と青森の豪雪
猛威を振るう豪雪の原因とみられている「線状降雪帯」とは、どのようなものなのでしょうか。線状降雪帯は「JPCZ(Japan sea Polar air mass Convergence Zone: 日本海寒帯気団収束帯)」とも呼ばれるもので、雪雲が数百kmにわたり連なっています。朝鮮半島から日本列島にかけての日本海上空に数十kmもの幅で発達した雪雲が発生し、この線状降雪帯の伸びた先では激しい豪雪となります。
線状降雪帯は大量の水蒸気を含む気流の帯である「大気の川」のような構造を持っており、この構造と暖かい海面と暖流の影響がその活動の維持に関わっています。「大気の川」になぞらえると線状降雪帯はいわば川の「本流」にあたり、周囲の気流が線状降雪帯に収束することとなります。日本海各所の暖かい海面から発生した水蒸気は一定の気流(=「支流」)にのって「本流」へ集中するため継続的に雪雲が形成され続ける環境が出来上がります。また「支流」が集まる海域は、対馬海峡から津軽海峡・宗谷海峡に流れる対馬暖流にあたり、暖流上の強風に流されて大量の水蒸気が「本流」へ供給されるのです。
立花(2022)らの研究における気象衛星「ひまわり」を用いて推定した日本海の海面水温による観測事例の再現と線状降雪帯の評価は、実際よりも過小であったとされています。というのも、「ひまわり」から推定された海面水温と実測の水温を比較すると、実測の方が約2℃高かったのです。
水温と異なるため厳密な比較は難しいですが、気温上昇と豪雨の関係から、温度上昇と気象の変化について考えてみましょう。気温が1℃上昇するごとに大気中の飽和水蒸気量(空気に含まれる水蒸気量の限界)は約7%増加するとされていますが、大気中に含まれる水蒸気の量を液体の水の量に換算したものである「可降水量」の視点から考えると、前述の約7%からさらに跳ね上がり、気温が1℃上昇すると可降水量は11〜14%増加することが明らかになっています(藤田・佐藤, 2022)。つまり、気温の上昇は私たちの想像以上に降水量の増加や豪雨の発生に大きな影響を及ぼしているのです。
上述の内容を海上で発生する気象にあてはめることはできなくても、線状降雪帯に似た「線状降水帯」については、水温の上昇が豪雨の発生に影響していることが明らかになっています。2017年に発表された長崎大学と東京大学、そして防災科学研究所の共同研究によれば、東シナ海の季節的な水温の上昇が、梅雨に九州でみられる集中豪雨の発生時期の早期化に関係していることや、雨量が増大する可能性が示されています。このことは、日本海の水温の上昇と線状降雪帯の形成・維持にも共通点があるといえるでしょう。
青森の豪雪の被害と県の対応
青森県では12月から雪の降る日が多く、年末年始にかけて大雪の日が続きました。2025年1月3日20時時点で、県内の気象庁観測点のうち青森で112cm、弘前で104cmと警戒積雪深を超える積雪がみられているほか、県内各地で平年比率114%〜406%という例年以上の積雪となっています。12月の積雪としては、弘前(84cm)・酸ヶ湯(357cm)・碇ケ関(85cm)で過去最大を記録しており、その高さからも積雪の深刻さが窺えます。
災害クラスの積雪に対し、青森県内の市町村は早期から豪雪対策本部等を設置しました。以下の表は2025年1月6日時点での県内各市町村の本部設置状況です。
表1 青森県内の豪雪対策本部等設置状況(2025年1月6日正午時点)
設置日 | 設置時 | 市町村 | 種別 |
12月23日 | 11:00 | 鶴田町 | 豪雪警戒本部 |
12月24日 | 9:00 | 藤崎町 | 豪雪警戒本部 |
| 16:30 | 鯵ヶ沢町 | 豪雪対策本部 |
12月26日 | 12:00 | 中泊町 | 豪雪警戒本部 |
| 13:00 | 弘前市 | 豪雪警戒本部 |
12月27日 | 9:30 | 板柳町 | 豪雪警戒本部 |
| 15:15 | 五所川原市 | 豪雪警戒連絡会議 |
1月1日 | 13:30 | 大鰐町 | 豪雪警戒本部 |
| 15:00 | 平川市 | 豪雪警戒本部 |
1月2日 | 10:00 | 黒石市 | 豪雪警戒対策本部 |
| 14:30 | 板柳町 | 豪雪対策本部 |
1月3日 | 9:00 | 弘前市 | 豪雪対策本部 |
| 11:00 | 平川市 | 豪雪対策本部 |
| 14:00 | 大鰐町 | 豪雪対策本部 |
| 15:00 | 田舎館村 | 豪雪対策本部 |
1月4日 | 9:00 | 青森県 | 豪雪対策本部 |
| 10:00 | 西目屋村 | 豪雪対策本部 |
| 14:00 | 青森市 | 豪雪対策本部 |
1月6日 | 9:00 | 鶴田町 | 豪雪対策本部 |
|
| 六ヶ所村 | 豪雪警戒本部 |
| 9:30 | 藤崎町 | 豪雪対策本部 |
| 10:00 | 黒石市 | 豪雪対策本部 |
※太字は警戒本部等から対策本部に切り替えたもの
特に降雪や積雪によって交通麻痺が発生した青森市では、1月2日時点で市への除雪に関する要望が1,000件を超えたり、仕事始めとなる6日も除雪作業を行ったりと交通や企業活動に大きな影響が出ています。また、県全体でもこの豪雪によって、交通への影響や倒木に伴う停電、雪下ろしでの事故による怪我や死亡といった被害が発生しており、今後も降雪が続き雪害が発生する恐れがあると判断し、県でも豪雪対策本部を立ち上げるに至りました。県本部では、前述の各市町村の対策本部等と連携し、リスクマネジメント・クライシスマネジメントを実施していきます。
県内の被害と今後
本記事では、線状降雪帯と青森の豪雪について、被害状況等も踏まえて見てきました。青森県においては、通信障害や鉄道・道路・航空機・船舶等の交通への影響、最大5,200戸の停電、雪下ろしでの転落による死亡や怪我、農林被害が発生しているほか、1月4日時点で雪に関係する119番通報の受理件数は82件を超え、雪道での転倒や屋根からの落下、側溝からの溢水や倒木が主な内容となっています。
今後は気温が上昇していくとみられ、積雪だけでなく融雪への警戒も必要になってきます。通行時には側溝や用水路も含めて足元に注意するとともに、特に除雪作業や雪下ろしを行う際にはヘルメットや命綱の着用を行ったり、単独行動を避けたりして、事故を防ぎながら復旧を行うことが重要です。
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